盲亀の浮木 接触篇
2020.04.27
人生なにが起こるか分からない
それを努力でコントロール出来るなどといった
傲慢な気概もない
人生は良くも悪くも裏切りの連続
所詮なるようにしかならない・・・
電話の主は前職、経理を担当していた元経営者の娘だった
「もう就職先は見つかりましたか?」
「いえ・・・まだですけど何か?」
「・・・実は・・・」
話の内容はこうだ
ある大手企業が会社を買い取る事が決定
人材を募集するにあたりまず前社員に説明会をしたいという
収入面も出来るだけ相談に乗ってくれるそうだ
・・・悪い話ではない
むしろ路頭に迷っている人間にはこれ以上にない救いの手
考える必要もない・・・
「せっかくですが、お断りします」
「・・・え?・・・同じ仕事を続けられるんですよ、
また一から仕事を覚えるよりも楽じゃないですか?」
・・・だから嫌なんだよ・・・
喉まで出かかった言葉を飲み込む
解雇通告のあったあの日
私の中でこの会社はすでに過去のものとなった
25年間務めさせてもらった事をひとつの経験として
懐かしむことはあっても戻りたいという気持ちは微塵もない
業績不振の中、社員全体を鼓舞しなければならない
自らの責務を果たすことが出来なかった
力不足は明白
この上楽をしようなど、まさに怠惰の極み
その後、関係者数名から同様の電話があったが
すべて同じ回答をした・・・
優柔不断が売りのポンコツだがこの件でブレる事はない
平たく言えば
進むも地獄、退くも地獄
ならば、まだ見ぬ新たな地獄の扉を開けようではないか
・・・まあ・・・開ける扉があればの話だが・・・
そして次に面接を受けた企業から採用の連絡をもらえる
青果卸売業者、野菜などを売っているらしいが
それ以上の想像はつかない
早朝からの仕事の為、終了時間も比較的早い
選んだ理由はそれだけ・・・
「酒は飲む?」
「浴びるほど」
「ほう・・じゃあザルって書いておく」
緊張の為、面接中に覚えている会話はこれだけ・・・
採用された事を嫁さんに伝える
「おっ・・良かったじゃん」と、それだけ・・・
思い返せば解雇された事を伝えた時も
「・・しばらくのんびりすれば・・」
あとはいつも通りの無関心?でいてくれた事が
とても有難かった。
とにもかくにも扉の取っ手に手を掛けることは出来た
待ち受ける大きな試練を覚悟しつつ同時に
娘二人も学校を卒業、無事に就職も決まり安堵する
「今年からみんな一年生だね」
そう言ってくれる嫁さんにささやかな感謝を伝えようと
そっと近づく
「・・・やめろ!・・・」
「・・・はい・・・」
このお方の気性も決してブレる事はない・・・
発動篇につづく 長谷部
それを努力でコントロール出来るなどといった
傲慢な気概もない
人生は良くも悪くも裏切りの連続
所詮なるようにしかならない・・・
電話の主は前職、経理を担当していた元経営者の娘だった
「もう就職先は見つかりましたか?」
「いえ・・・まだですけど何か?」
「・・・実は・・・」
話の内容はこうだ
ある大手企業が会社を買い取る事が決定
人材を募集するにあたりまず前社員に説明会をしたいという
収入面も出来るだけ相談に乗ってくれるそうだ
・・・悪い話ではない
むしろ路頭に迷っている人間にはこれ以上にない救いの手
考える必要もない・・・
「せっかくですが、お断りします」
「・・・え?・・・同じ仕事を続けられるんですよ、
また一から仕事を覚えるよりも楽じゃないですか?」
・・・だから嫌なんだよ・・・
喉まで出かかった言葉を飲み込む
解雇通告のあったあの日
私の中でこの会社はすでに過去のものとなった
25年間務めさせてもらった事をひとつの経験として
懐かしむことはあっても戻りたいという気持ちは微塵もない
業績不振の中、社員全体を鼓舞しなければならない
自らの責務を果たすことが出来なかった
力不足は明白
この上楽をしようなど、まさに怠惰の極み
その後、関係者数名から同様の電話があったが
すべて同じ回答をした・・・
優柔不断が売りのポンコツだがこの件でブレる事はない
平たく言えば
進むも地獄、退くも地獄
ならば、まだ見ぬ新たな地獄の扉を開けようではないか
・・・まあ・・・開ける扉があればの話だが・・・
そして次に面接を受けた企業から採用の連絡をもらえる
青果卸売業者、野菜などを売っているらしいが
それ以上の想像はつかない
早朝からの仕事の為、終了時間も比較的早い
選んだ理由はそれだけ・・・
「酒は飲む?」
「浴びるほど」
「ほう・・じゃあザルって書いておく」
緊張の為、面接中に覚えている会話はこれだけ・・・
採用された事を嫁さんに伝える
「おっ・・良かったじゃん」と、それだけ・・・
思い返せば解雇された事を伝えた時も
「・・しばらくのんびりすれば・・」
あとはいつも通りの無関心?でいてくれた事が
とても有難かった。
とにもかくにも扉の取っ手に手を掛けることは出来た
待ち受ける大きな試練を覚悟しつつ同時に
娘二人も学校を卒業、無事に就職も決まり安堵する
「今年からみんな一年生だね」
そう言ってくれる嫁さんにささやかな感謝を伝えようと
そっと近づく
「・・・やめろ!・・・」
「・・・はい・・・」
このお方の気性も決してブレる事はない・・・
発動篇につづく 長谷部