盲亀の浮木 矜持篇
2020.07.06
空を飛ぶ夢を何度か見た事がある
ただし、それは鳥の様に大空を優雅に舞うのではなく
いつも地面スレスレ
気を抜けばすぐにお腹を擦ってしまうほどの超低空飛行
目覚めれば不快感だけが残る
飛んでいるのに自分が思い描いたものと何か違う
儚い人生とよく似ている
奇しくもそう諭してくれているのかもしれない・・・
気が重い、とにかく気が重い・・理由は明らか
今まで車での移動は自宅から会社への往復がほとんど
そもそも運転があまり好きではない
人付き合いや人間関係が苦手で基本一人で居ることを好む
それなのに今、営業マンとして車を走らせている
正直、不安しかない・・・
直属の上司が言う
「まずは顔を覚えてもらう自分に知識や経験が無いことを
そのまま伝えろ、あとは世間話でもすればいい」
世間話・・口下手な人間にとってなかなか高いハードル
しかし萎縮している場合ではない
腹をくくって店に飛び込むとどの店の人達も
好意的に接してくれたのには救われた
きっと前任者の対応が良かったからであろう
この流れを継続出来るよう努めなければ
「あの・・珍しい野菜があるんですが・・」
「へえ~これどうやって食べるの?」
「・・・さぁ?・・・」
「えぇ~っ!」
前途多難である・・
とにかくまめに店からの
「こういった物が欲しい」の声をかき集め
市場中を駆けずり回り探す
追加の注文があればすべて受け付ける
それが何時でも休日でも
たとえ数百円の荷物一つであったとしても
可能な限り対応する
「たかだか1ケースなんて断ればいいのに」
そんな周りの声に私は耳を貸さなかった
前任者の唯一手薄だった部分そして全てにおいて
足元にも及ばない人間が唯一実現可能な付加価値
誰とも組まず単独行動だからこそ出来る強行策なのだ。
数日後、上司に付き添い別件の為車を走らせる
「どうだ、店回りの方は?」
「まあ・・なんとか・・・」
「周囲の風当たりが強いのは分かっている
お前には酷な状況だろう・・・」
気にかけてくれていたようだ
「まあ・・そんなもんでしょう」
「・・・そうか・・・」
常に崖っぷちなのは間違いないが以前の様な
気苦労を抱えることもない、それだけで十分だった。
店からの注文を積極的に取りに行き野菜果物を自社から買う
売り込んだ利益はすべて関連会社のものになってしまう為
会社に貢献するには出来るだけ多くの荷物を買うことに限られる
どんな青果物も物量が多い時期、少ない時期
売れる時期、売れない時期があるので
売れ残っている荷物があれば少しでも手を付け
時には損を覚悟で全量買い取る、しばらくすると
「こうゆう物あるけどどう?」
「これ、安くしとくから売り込んでくれない?」
周りから声を掛けてくれる事が増え
こちらが荷物が揃わず困っていると
「こないだ助けてもらったから何とかするよ」
と協力してくれる
「いつも無理を聞いて貰ってるから困ってる在庫があれば買うよ」
店の人達からもこんな有難い言葉を頂くと
溜まった疲れも消えてしまうのは単細胞のなせる技だろう
「・・・恩を売るのが仕事・・・」
この言葉の意味が少しだけ分かった様な気がする・・・
場内で様々な人と話す機会が増えると青果物の情報以外にも
会社内部の噂話が耳に入ってくる、言わずもがな悪い噂だ
「まあ・・そんなもんでしょう」
いつもそう言って締めくくり大して気にも留めない
世の中の基礎は差別と偏見、不公平で成り立っている
こちとらそんな概念を持つ純度の高い変態なのだ・・・
上司と車で移動中、面接をした時の話になった
採用か否か問題になったのはやはり年齢だったが
自分の下で使う事を条件に少々強引に決めたらしい
「真面目そうだから」理由はそれだけ・・・
仕事内容の事もあり会議で非難を浴びたりもしたそうだ
それ故、いい加減な仕事をすれば
「それ見たことか!」
と、なりその矛先は私ではなく上司に向けられる
そんなことはさせない
努力は必ず報われる・・この言葉は嫌いだ
人生は良くも悪くも裏切りの連続
所詮なるようにしかならない・・・ただ
こんなポンコツを拾ってくれたこの会社この上司に
「こいつを採用したのは失敗だった」と
絶対に言わせてはならないのだ
だから権利を主張する前にまず義務を果たす
それが周りから見て正しいかどうかなど関係はない
盲亀の浮木・・・おわり。 長谷部
ただし、それは鳥の様に大空を優雅に舞うのではなく
いつも地面スレスレ
気を抜けばすぐにお腹を擦ってしまうほどの超低空飛行
目覚めれば不快感だけが残る
飛んでいるのに自分が思い描いたものと何か違う
儚い人生とよく似ている
奇しくもそう諭してくれているのかもしれない・・・
気が重い、とにかく気が重い・・理由は明らか
今まで車での移動は自宅から会社への往復がほとんど
そもそも運転があまり好きではない
人付き合いや人間関係が苦手で基本一人で居ることを好む
それなのに今、営業マンとして車を走らせている
正直、不安しかない・・・
直属の上司が言う
「まずは顔を覚えてもらう自分に知識や経験が無いことを
そのまま伝えろ、あとは世間話でもすればいい」
世間話・・口下手な人間にとってなかなか高いハードル
しかし萎縮している場合ではない
腹をくくって店に飛び込むとどの店の人達も
好意的に接してくれたのには救われた
きっと前任者の対応が良かったからであろう
この流れを継続出来るよう努めなければ
「あの・・珍しい野菜があるんですが・・」
「へえ~これどうやって食べるの?」
「・・・さぁ?・・・」
「えぇ~っ!」
前途多難である・・
とにかくまめに店からの
「こういった物が欲しい」の声をかき集め
市場中を駆けずり回り探す
追加の注文があればすべて受け付ける
それが何時でも休日でも
たとえ数百円の荷物一つであったとしても
可能な限り対応する
「たかだか1ケースなんて断ればいいのに」
そんな周りの声に私は耳を貸さなかった
前任者の唯一手薄だった部分そして全てにおいて
足元にも及ばない人間が唯一実現可能な付加価値
誰とも組まず単独行動だからこそ出来る強行策なのだ。
数日後、上司に付き添い別件の為車を走らせる
「どうだ、店回りの方は?」
「まあ・・なんとか・・・」
「周囲の風当たりが強いのは分かっている
お前には酷な状況だろう・・・」
気にかけてくれていたようだ
「まあ・・そんなもんでしょう」
「・・・そうか・・・」
常に崖っぷちなのは間違いないが以前の様な
気苦労を抱えることもない、それだけで十分だった。
店からの注文を積極的に取りに行き野菜果物を自社から買う
売り込んだ利益はすべて関連会社のものになってしまう為
会社に貢献するには出来るだけ多くの荷物を買うことに限られる
どんな青果物も物量が多い時期、少ない時期
売れる時期、売れない時期があるので
売れ残っている荷物があれば少しでも手を付け
時には損を覚悟で全量買い取る、しばらくすると
「こうゆう物あるけどどう?」
「これ、安くしとくから売り込んでくれない?」
周りから声を掛けてくれる事が増え
こちらが荷物が揃わず困っていると
「こないだ助けてもらったから何とかするよ」
と協力してくれる
「いつも無理を聞いて貰ってるから困ってる在庫があれば買うよ」
店の人達からもこんな有難い言葉を頂くと
溜まった疲れも消えてしまうのは単細胞のなせる技だろう
「・・・恩を売るのが仕事・・・」
この言葉の意味が少しだけ分かった様な気がする・・・
場内で様々な人と話す機会が増えると青果物の情報以外にも
会社内部の噂話が耳に入ってくる、言わずもがな悪い噂だ
「まあ・・そんなもんでしょう」
いつもそう言って締めくくり大して気にも留めない
世の中の基礎は差別と偏見、不公平で成り立っている
こちとらそんな概念を持つ純度の高い変態なのだ・・・
上司と車で移動中、面接をした時の話になった
採用か否か問題になったのはやはり年齢だったが
自分の下で使う事を条件に少々強引に決めたらしい
「真面目そうだから」理由はそれだけ・・・
仕事内容の事もあり会議で非難を浴びたりもしたそうだ
それ故、いい加減な仕事をすれば
「それ見たことか!」
と、なりその矛先は私ではなく上司に向けられる
そんなことはさせない
努力は必ず報われる・・この言葉は嫌いだ
人生は良くも悪くも裏切りの連続
所詮なるようにしかならない・・・ただ
こんなポンコツを拾ってくれたこの会社この上司に
「こいつを採用したのは失敗だった」と
絶対に言わせてはならないのだ
だから権利を主張する前にまず義務を果たす
それが周りから見て正しいかどうかなど関係はない
盲亀の浮木・・・おわり。 長谷部