身の上話
2020.10.19
最近テレビを見ることが本当に少なくなった。
面白い番組が無い訳ではないのだが
進んでチャンネルを変えるほどではないし
すぐに寝てしまう
歳と共に体の反応は実に素直になっていて
派手なアクション映画でも内容が薄いと
いつの間にか眠りに落ちる
しかし嫁さんとの会話の途中で寝落ちしてしまった時には
さすがにマズイと猛省した
次、同じ事をしたら二度と目覚める事が出来ないだろう・・・
と、目の前の凄まじき形相で確信したからだ。
テレビの代わりに見るようになったのはネットの動画
居酒屋をまわり無言で飲み歩く・・・
軽自動車で出かけ車中泊をする・・・
淡々と進む15分から30分ほどの動画を配信されるたびに見ている
「何が面白いの?」
と、聞かれるとうまく説明出来ないのだが
喋らず派手なリアクションもないのが観る側の想像を膨らませる
作り手のセンスの良さなのだろう
寝る時間を遅らせてもいいと思えるほど不思議な魅力がある。
どういう仕組みでお金が発生するのか未だに理解できないのだが
人気が出ればこれで信じられないほどの収入を得る人達もいるというのだから
すごい時代になったものだ。
小学生の頃、通信手段といえば家の電話か公衆電話
もちろんインターネットなどという概念そのものが無かった時代
学校の中で人を惹きつける魅力を持った人達を数多く知っている
今のような全国に発信できる手段があったならば
有名人になっていたのではないか?
そんな彼らをただただ羨望の眼差しで見つめていた
中でも強く印象に残っているのは
学校からの帰り道にあるよく遊び場にもなっていた小さな神社
そこで友人が偶然見つけた外壁に鉛筆で書き記された文字
「少女が泣いている、部屋に閉じ込められて泣いている
助けを求めて泣いている・・・黒いチューリップより」
このわずか二行ほどのメッセージ
いつ、誰が、何の目的で・・・
内容の不気味さも相まって友人たちの間で話題になった
数日後にまた新たなメッセージ
「暗くせまい部屋でひとり助けを求めている急げ時間はあまりない
少女は泣いているぞ・・・黒いチューリップより」
学校帰りに神社の壁を確認するのが日課となった
ひょっとしたら友人たちの誰かがメッセージ主なのではないか?
黒いチューリップは誰だ?
そんな憶測まで呼びこれを模倣する者まで現れたが
オリジナルを超える心理的衝撃はなかった
壁に新たな名前の書き込みをすることが流行りだした頃に
黒いチューリップからのメッセージはなくなり
結末を迎えることなく自然消滅していく
わずか一ヶ月ほどの短い期間だったが40年以上経った今もなお
忘れることのない出来事である。
今ネットで活躍している人達が数十年後
人々の記憶に刻まれているかどうかは分からないが
この怨念と憎悪の掃き溜めの世界で
想像出来ない大変な苦労があるものと思う
動画を楽しく見させて貰いながらも
背中合わせにある得体の知れないドロドロと渦巻く何かに恐怖し
時折この小さな物体を
ゴミ箱に放り投げたい衝動に駆られる・・・。
長谷部