飲みに出かけるのが好きな知人から聞いた話し
その日は、いつも行く若い女の子が接客してくれるお店ではなく
なぜか冒険心に駆り立てられ
熟女系の小さなお店に挑んだのだそうです。

いざ店内に入ると出迎えてくれたのは
熟女というより、もう少しご高齢の方が数名
おっと、少し怯んだがそんなことは、おくびにも出さない
滞りなくお酒を飲み会話を楽しみました。

そして数日後、その店のママから一文のメールが届きます
「今日は月が綺麗ですね・・・」
この話を聞いたとき
若い子とは違い人生経験を重ねた人の言葉は一味違う
とても面白い話と思ったのですが
後になってこの「月が綺麗ですね」という言葉
かの有名な小説家が告白の言葉として生んだものだと知りました。

ご存知の方も多いと思いますが
当時、英語教師をしていた頃、I LOVE YOU、の訳を
「日本人にはこれで通じる」と言ったとされています
（実際にそう言ったかどうかは定かではない）
無知な私は深く心を動かされました
この店のママはなんと粋な感性の持ち主なのだろうか
（まあ愛の告白なので少々怖いですが）
普段こういったお店は苦手であまり行くことはないのですが
この熟女の方達とはどんな会話が出来るのだろうか？
興味が湧きます
ここ数年のコロナ禍でお店が存続しているのかどうか分かりませんが
気になるところです。

そして直接的な表現ではなくいろいろな言い回しで
思いを伝えることのできる日本語の素晴らしさを
改めて実感するのでした。

近年、白か黒か、より直接的で強い言葉が求められ
もてはやされているように感じます。
日々窮屈で殺伐とした、まるで淀んだ空気の中を掻き分けるように歩んでいれば
強い言葉は先を照らす光のごとく心に刺さるものかもしれませんが
同時に自覚なく人を煽り傷つけ追い詰めてしまう危険性もある。

世界中に三千とも七千ともあるといわれている言語の中で
豊かな表現ができる日本語の美点が奥ゆかしさが
今の時代だからこそ生きるのではないか
毒にも薬にもならない曖昧な言葉にいったい何の意味があるのか？
と言われてしまえば返す言葉もありませんが
思いのほか飾らない控えめな言葉ほど
記憶に刻まれているから不思議なものです。
長谷部